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福岡高等裁判所 昭和42年(ネ)248号 判決

控訴人 全林野労働組合九州地方本部 外五名

被控訴人 国 外六名

訴訟代理人 上野国夫 外九名

主文

一、本件各控訴を棄却する。

二、控訴人全林野労働組合九州地方本部の被控訴人熊本営林局長、同大口営林署長、同鹿屋営林署長、同対馬営林署長、同小林営林署長、同飫肥営林署長に対する当審における新訴を却下する。

三、控訴人全林野労働組合九州地方本部の被控訴人国に対する当審における新請求を棄却する。

四、控訴費用(当審における新訴の提起によつて生じた分を含む。)は控訴人らの負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、当裁判所も控訴人らの従前の本訴請求中、被控訴人国を除くその余の被控訴人らに対する本件各訴及び被控訴人国に対する本件(二)の労働協約の存続確認を求める訴はいずれもこれを却下すべく、被控訴人国に対し本件協約等の内(二)の労働協約を除くその余協約等が存続することの確認を求める請求はいずれも棄却べきものと判断するが、その理由は次に附加するほか原判決書理由欄記載と同一であるから、これをここに引用する。

原判決七七枚目裏六行目「四月二二日」の次に「労組法一五条の手続によつて」を、同八五枚目裏四行目「乙第一号証の五六」の次に「同第三、第四号証」を、同五行目「同第一三号証の一ないし五、」の次に「同第四〇号証」を、同八九枚目表四行目の末尾に「もつとも、〈証拠省略〉には本件協約等の解約が団体交渉の拒否ないしは組合の組織運営に対する支配介入であるとの原告らの主張に副う部分があるけれども、右証言は前記認定の証拠に照らして措信することができない。」をそれぞれ加える。

〈証拠省略〉には本件協約等の解約が団体交渉の拒否ないしは組合の組織運営に対する支配介入であるとの控訴人らの主張に副う部分があるけれども、右証言も原審の認定に供した証拠に対比して措信するを得ない。

二、控訴人全林野九州地本の被控訴人国を除くその余の被控訴人らに対する新請求について。

被控訴人らは、被控訴人国を除くその余の被控訴人らは財産上の権利義務の主体とはなりえないから、本件訴は不適法として却下せらるべきであると主張するので検討するに、本訴被控訴人らのうち被控訴人国を除くその余の被控訴人らはすべて国の行政機関であつて、行政事件訴訟法等法律に特別の規定がある場合のほかは訴訟の当事者となる権能を有しないと解すべきところ、新請求は損害の賠償を求める通常の民事訴訟法上の訴であつて被控訴人国を除いたその余の被控訴人らはすべて右訴につき当事者能力を欠いているものというべきであるから、右被控訴人らに対する控訴人全林野九州地本の本件訴は不適法であるといわなければならない。

三、控訴人全林野九州地本の被控訴人国に対する新請求について本件(一)ないし(二)の協約等が別紙記載の日時に各当事者間において締結作成されたものであること、熊本営林局並びに各営林署から昭和三八年四月二二日労組法一五条の手続によつて右各協約等について、相手方当事者である控訴人らに対し、同年七月二二日付をもつて解約する旨の解約予告がなされたことにつき当事者間に争いのないことは、先に説示のとおりである。

控訴人全林野九州地本は、被控訴人らのした本件協約等の解約は組合の団結の弱化を企図してした侵害行為である旨主張するので、以下検討する。

1  本件(四)の団体交渉議事録確認事項、(五)の協約、(七)の団体交渉議事録確認事項及び(八)の覚書を解約するに至つた経緯については、先に引用した原判決理由欄記載(原判決八三枚目表三行目から同八七枚目表六行目まで)のとおりである。

2  本件(一)の団体交渉議事録確認事項が当事者の署名又は記名押印という労組法所定の形式的要件を欠いており、これが表示された合意の内容に即して直接当事者を拘束する法律上の効力を認めることができないことは前説示のとおりであるが仮に右確認事項につき何らかの効力を認めるべきであると解しても、〈証拠省略〉を総合すると熊本営林局管内の営林署の退職者の退職金の支給がおくれていたことに端を発して組合側から、当局は右退職者を強制的に退職せしめたものであるといつたことが問題として提起せられ、そのことについて組合は営林当局と団体交渉を持つた結果、当事者間に本件(一)の団体交渉議事録確認事項記載の取極めがなされ、その後は右取極めによつて退職については組合を通じて本人の意思を確めたり、あるいは組合の了解のもとに当局が本人と退職の件について話合うといつた運営がなされてきたが、当局側は国家公務員等退職手当法等法令上においても、個々の職員に対して退職勧奨をすることの措置を認めているにもかかわらず、右取極めに基づいて組合の了解がなければかかる措置をとることができないということになると、人事管理上も著しい支障があるばかりでなく、もともとかかる事項は公労法八条但書にいわゆる管理運営事項に該当するものであつて、団体交渉の対象にはなり得ないとの判断のもとに、右確認事項が労働協約としての要件を備えているものではないが、これを整理する意味において労組法所定の労働協約解約の規定に則り解約するに至つたものであることが認められる。

3  本件(二)の全幹集材についての協約についてみるに、〈証拠省略〉を総合すると、全幹集材方式とは、従来行われてきた伐倒現場で枝打ちや玉切りをし、玉切りされた丸太を集材するという方法とは異り伐倒した木材を枝葉を落さないまま機械力で土場に集材し、土場において枝葉を落し、玉切りを行い造材するというものであるが、熊本営林局においては昭和三七年度製品事業の生産計画の作成に当り大口営林署布計事業所を含む八事業所において全幹集材を試験的に実施する計画をたて、同年三月二三日右八事業所を実験事業所に指定したこと、これに対し全林野労組及び全林野九州地本においては、かねて企業合理化反対闘争の一環として、機械導入、請負導入等企業合理化に対し事前協議制の協約を勝ちとるという運動方針を決定し、これに基づき下部組合を指導していたのであるが、布計事業所等が実験事業所に指定されたことに伴い、組合は右運動方針に基づいて全幹集材実施について当局に団体交渉を申入れ、その結果、同月三〇日大口営林署との間に本件(二)の労働協約が成立するに至つたものであること、しかるに、営林当局は全幹集材方式は労働生産性を上げるための作業方式の変更であり、かかる事項は公労法八条但書にいわゆる管理運営事項にあたると判断して本件(二)の労働協約を解約するに至つたものであること、ところがその後熊本営林局管内の一部営林署において、全幹集材に関する事案につき紛争が生じ、控訴人全林野九州地本が熊本営林局長を相手方として公共企業体等労働委員会福岡地方調停委員会に対し調停申請したところ、同委員会から、「全幹集材方式の導入は林野事業経営の合理化上当然必要なものと考えられるが、他方これが職員の労働条件に及ぼす面につき慎重な配慮が必要であり、すみやかに労使間で協議すること。」との調停案が示され、これに基づき熊本営林局と全林野九州地本との間で全幹集材方式の採用について団体交渉が行われた結果、昭和三八年五月一六、一七日協議が整い、以後同営林局管内においては全面的に全幹集材方式が採用されるに至つたことが認められる。

4  本件(三)の団体交渉議事録確認事項についてみるに、右確認事項が当事者の署名又は記名押印という労組法所定の形式的要件を欠いており、これが表示された合意の内容に即して直接当事者を拘束する法律上の効力を認めることができないことは前説示のとおりであるが、仮に右確認事項につき何らかの効力を認めるべきであると解しても、〈証拠省略〉を総合すると、林業に使用する機械としては、集材機、チエンソー、ブツシユクリーナ等があるが、林野当局はこれらの機械を導入して集約的に作業を行うことになれば、従来行つてきた手作業による人力を節約し能率をあげることができるので、昭和三三年頃から林力増強計画に基づき機械を導入することによつて現場作業の合理化を計画し逐次これを実行に移していたのであるが一方上部組合としては、前記全幹集材方式の採用におけると同様機械を導入することになると、労働者に対する首切り、配置転換、賃金の低下といつた結果をもたらすことになるのでこれに反対し、かねて林力増強計画により労働条件に変更をきたすような場合には当局は事前に組合と協議するいわゆる事前協議制の獲得をその運動方針として決定し、これに基づいて下部組織を指導していたところから、全林野九州地本鹿屋分会としても機械導入の場合においては計画の時点において組合と事前協議をするとの要求を出し、鹿屋営林署も組合の要求に応じ、昭和三六年一二月二二日右当事者間に本件(三)の団体交渉議事録確認事項記載の協約が締結されるに至つたこと、しかし営林当局は本件事項において協議の対象とされているのは労働条件ではなく、事業計画そのものであると判断し、かかる事項はもともと公労法にいわゆる管理運営事項にあたるものであるとの判断のもとに、本件確認事項が労働協約としての要件を備えているものではないが、これを整理する意味において労組法所定の労働協約解約の規定に則り解約するに至つたものであることを認めることができる。

5  本件(六)の炊事手に関する団体交渉議事録確認事項についてみるに、右確認事項が当事者の署名又は記名押印という労組法上の形式的要件を欠いていて、これがそこに表示された合意の内容に即して直接当事者を拘束する法律上の効力を認めることができないことは前説示のとおりであるが、仮に右確認事項につき何らかの効力を認めるべきであると解しても、〈証拠省略〉を総合すると、対馬営林署管内の宿泊施設である有明寮における炊事手の勤務の実態は、その職務内容が寮生の賄い、食料品の買出し、清掃、風呂沸し及び電話番であり、実働時間は長く継続することなく中断し、かなりの手待時間があつたこと、本件で問題となつている対馬、小林、飫肥営林署以外の熊本営林局管内の各営林署の宿泊所、寮等の施設に勤務する炊事手については労働基準法の規定に則り断続的労働に従事するものとして所轄労働基準監督署長に適用除外の許可申請をし、その許可を受けたうえ断続勤務として取扱つていたが、対馬営林署有明寮の炊事手の勤務については右適用除外の許可申請手続をしないまま勤務時間の目安を定めて断続勤務として実施していたところ、厳原労働基準監督署において昭和三四年五月炊事手の勤務の実態調査をした結果、右勤務が断続的なものであることが確認されたので、対馬営林署長は同月六日厳原労働基準監督署へ断続的労働に従事する適用除外の許可申請を行い、同月一一日右申請が許可されるに至つたこと、しかるに組合は有明寮の炊事手を断続勤務にしたことを不当とし、団体交渉を求めた結果同年六月二五日対馬営林署との間に組合側の要求に基づいて本件(六)の団体交渉議事録確認事項記載の取極がなされたが、営林当局は炊事手の勤務の実態は従前同様断続的なものであつて継続的なものではないこと、また、断続勤務の実態に反して継続勤務を取扱にするのは、断続勤務に従事している者に適用される職員就業規則三五条(同条は監視又は断続勤務に従事する職員については、継続的勤務に従事する一般職員に適用される勤務時間、休憩時間、週休日等の規定は適用されない旨を定めたもの)を改変することになるのであるが、中央協約である三五林協三八号団体交渉に関する協約九条、三五林協三九号団体交渉に関する協約の運用に関する覚書四項(1) によれば、このように就業規則を改変する結果を惹起する事項は下部機関では処理できないと定められているのであつて、もともと営林署の交渉権限外の事項であること等の理由でもつて本件(六)の確認事項の取扱を続けることは不当であると判断し、本件確認事項が労働協約としての要件を備えているものではないが、これを整理する意味において労組法所定の労働協約解約の規定に則り解約の措置をとるに至つたことを認めることができる。

6  本件(九)の団体交渉議事録確認事項についてみるに、右確認事項が当事者の署名又は記名押印という労組法所定の形式的要件を欠いており、これが表示された合意の内容に即して直接当事者を拘束する法律上の効力を認めることができないことは前説示のとおりであるが、仮に右確認事項につき何らかの効力を認めるべきであると解しても、〈証拠省略〉を総合すると、団体交渉における交渉委員の交替あるいは上部役員の下部交渉への参加ということは団体交渉の協約ができる以前においては営林署段階における紛争の一つの大きな問題となつていたこと、というのはグルグル交替と称して継続した団体交渉の中で組合側が交渉委員を差し換え、長時間にわたつて継続的な団体交渉を強要するに対し、当局側は限られた人員しかいないので、交替するにも交替のしようがなく、これがために精力を消耗することになるに反し、組合側は新手の交渉委員をさしかえることによつていつまでも交渉が続けられるといつたことから拠点闘争が行われた営林署の団体交渉では事実上当局側が不利な立場にたたされることになり、また上部組合の役員が下部交渉に参加してくる場合、当局側の交渉委員は上部の交渉の経過を知らないところへもつてきて組合側の上部役員が交渉に入つてきて当局側をやりこめるというようなことが行われて、当局側もこれに対抗する意味において営林局段階の交渉にあたつている交渉委員を派遣してもらつて右委員に営林署段階における交渉に参加してもらうということにならざるをえなかつたこと、しかしながら、そうなると団体交渉の協約で定めているところの交渉権限を各段階に配分して、双方に組織体としての機能を交渉の場においても円滑に発揮させようという趣旨から定められたルールが破れてしまい、末端の段階における交渉が一段上位の段階の交渉委員によつて事実上行われることになつて、末端における団体交渉を認めた理由がなくなるばかりでなく、かかることで紛争が繰返されるということは不都合であるということから、今後はかかることはお互に慎んでやらないようにし、円満な労使関係の確立ということで、昭和三五年九月一日林野庁と全林野労組との間に団体交渉に関する協約(三五林協三八号)ができるに至つたこと、しかるに同月一五日熊本営林局と全林野九州地本との間に本件(九)の団体交渉議事録確認事項が締結されるに至つたが、前記のとおり中央協約として団体交渉に関するルールができて中央協約で改めようとした事項が営林局段階における団体交渉においては、これを存続させるような議事録確認事項が取極められるに至つたこと、しかしながら営林当局としてはかかることは上部協約の精神にも反することでもあり、著しく妥当性を欠くとの判断のもとに、右確認事項が労働協約としての要件を備えているものではないが、これを整理する意味において労組法所定の労働協約解約の規定に則り解約の措置をとるに至つたことを認めることができる。

7  本件(一〇)の小委員会議事録確認事項についてみるに、〈証拠省略〉を総合すると、昭和三六年九月一日林野庁と全林野労組との間に国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約(三六林協三五号、以下本項において右協約を中央協約という。)が締結されたが、右中央協約の定めるところによると、(一)常用作業員及び定期作業員の基本賃金は経験年数算定要領に基づき各作業員の経歴により算定することとなるのであるが(右協約六条及びこれに基づく別紙(1) 経験年数算定要領)、技能又は能率において他との均衡上基本賃金の調整を必要とする場合には、所属の長は調整委員会の議を経てその調整を行なうことができ、各調整による基本賃金の増額は、同一人同一職については一年に一回行なうことができるとし、一年度において調整を行なうことのできる人員は職種ごとに前年度において常用作業員と定期作業員との合計人員が最も多かつた時期のその人員の一〇〇分の一〇以内とする。ただし前年度において常用作業員と定期作業員との合計人員が最も多かつた時期のその人員が一〇名にみたない職種については、近親職種から順次合算することとし、その合計数が一〇名を増すごとに一名を調整人員として算出しこの方法による計算の結果なお一〇名にみたない端数が残るときには、その端数につき一名を調整人員に加算するものとしていること(同協約八条及び別紙(2) 八条二項二号ただし書の取扱)(二)同協約中調整委員会の構成、運営等に関しては例えば営林署の段階についていうならば、当局側三名組合側三名の調整委員を出して調整委員会を構成し、同委員会において前記の規定に基づいて調整人員を算出し、右算出された人員をどの作業員にあてはめるかどうかを審議し、営林署長は同委員会の議を経て調整を行なうことになるのであること(同協定約九条及びこれに基づく別紙(3) 調整委員会要綱)、なお賃金は新体系に切替えるに際しては経験年数算定要領に基づき各自の経験年数を決定しこれに基づいて新賃金が算定されることになるが、これに応ずる新体系による賃金を算出するにつき各作業員の履歴書が当時必ずしも整備されてはいなかつたのでその前提としてまず新体系の経験年数算定に適合する各作業員の履歴を審査する必要があり、しかもそれが賃金の決定に直接影響することになるので、新体系に切替えるに際しては組合側も立会つて妥当な審査をするため、暫定的な措置として履歴審査委員会を設け、ここで審査して新体系に切替えることとしていること(前記経験年数算定要領)、(三)同協約中超過勤務手当に関しては国有林野事業職員就業規則三四条の規定により超過勤務を命ぜられた作業員には、その勤務時間一時間について格付賃金の一日の所定の勤務時間に対する一時間当たりの額に一定の割合を乗じて得た額に相当する額を超過勤務手当として支給することになり、右超過勤務時間に端数を生じた場合には三〇分未満はこれを切り捨て、三〇分以上はこれを一時間に切り上げるものと定めていること(同協約一八条)、しかるに昭和三七年二月六日組合の要求に基づき熊本営林局と全林野九州地本との間に本件(一〇)の小委員会議事録確認事項が締結されたが、営林当局としては、右確認事項で確認したところにより前年度の人員が一〇名にみたない場合及び一〇名にみたない端数を生ずる場合の取扱につき経験年数算定要領第三表の職群区分表により近親職種を括りその計が一〇人以上の場合は端数を四捨五入し、その計が一〇人未満の場合は一人とするといつた取扱いにすると、職群ごとに調整人員を算出することとなるので中央協約で定めた前記(一)の取極めよりも調整人員が多く算出される場合の生ずること、また本件確認事項で定めたように基本賃金の確認及び体系切替後の履歴審査をいずれも調整委員会において実施することになると、もともと中央協約では基本賃金なるものはお互に協議することなくして機械的に決められるものであつて、かかる賃金の確認を調整委員会において確認することになると右委員会を設置した趣旨に反すること、また中央協約で履歴審査委員会を設置して履歴を審査する趣旨は旧体系から新体系に賃金を切替えるにあたつては作業員の履歴の審査が賃金の決定に重要な要素であり、これを大量に扱うこととなるため、その正確を期する意味からも審査委員会において審査するのを相当と認めて設けられたものであること、しかるに新体系に切替えた後に新規採用する作業員については履歴審査も容易であり別個に履歴審査機関を設けてこれを審査する必要もないのみならず、調整委員会においては履歴審査をすることはその権限外のことであること、また超過勤務の端数処理についての本件確認事項のように給仕、小使、乗務員等は勤務時間の前または後に三〇分未満の端数時間超過勤務をすることが通例となつておるものとし、右端数時間の処理につき下部協議により決めることができるとなると、前記中央協約で定めた超過勤務の端数処理に関する規定に違反することになると判断し、本件(一〇)の小委員会議事録確認事項を解約することにふみきつたものであることを認めることができる。

8  本件(二)の覚書についてみるに、〈証拠省略〉を総合すると、昭和三六年一二月二二日林野庁と全林野労組との間に通勤手当の支給に関する協約(三六林協八六号)が締結されたこと、右協約の定めるところによると通勤手当は通勤のための交通機関又は有料道路を利用し、かつその運賃又は料金を負担することを常例とする者に支給する旨規定する。しかるに、株主優待乗車証を取得または借受ける等して交通機関を利用しているものについても、実質上の出費をしていることを理由に通勤手当を支給せらるべきであるとの組合の要求に基づき昭和三七年一月一九日熊本営林局と相手方組合との間に本件覚書が締結されるに至つたこと、しかるに営林当局は右覚書のような定めは上部協約である前記通勤手当の支給に関する協約の解釈を逸脱するものであると判断し、右覚書を解約するに至つたことを認めることができる。

以上の点に関して〈証拠省略〉には、本件解約は組合の団結の弱化を企図したものであるとの控訴人全林野九州地本の主張に副う部分があるけれども、右証言は前記認定の証拠と対比して措信することができない。

以上認定の事実に当判決引用にかかる原審認定の「林野当局が本件協約を解約するに至つた経緯」(原判決八七枚目表七行目から同八八枚目裏八行目まで)を合せ考えれば、原審判断と同様に(原判決八八枚目裏九行目から同八九枚目表五行目まで-当審における付加部分を含む)本件全協約等の解約が国有林野事業という全国的な一つの経営組織体としての立場からその内部での不統一な取扱をやめて同一基準の下に取扱を統一し、かつ、当局の管理体制を強化するという目的でなされたものと認むべきであつて、右解約が直接団体交渉の拒否ないし組合の組織運営に対する支配介入にあたると認むべき具体的な事実上の連関を肯定するに足りる資料は存在せず、また、右解約が組合の団結の弱化を企図してなされたことを肯定するに足りる資料も存しない。

以上の次第であつて、控訴人全林野九州地本の被控訴人国に対し損害の賠償を求める当審における新請求は理由がないものといわなければならない。

よつて当審の判断と趣旨を同じくする原判決は相当であるから本件各控訴は理由がないものとしてこれを棄却すべく、控訴人全林野九州地本の被控訴人国を除くその被控訴人らに対する当審における新訴は不適法であるからこれを却下し、被控訴人国に対する当審における新請求は爾余の点につき判断するまでもなく失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中池利男 松村利智 白川芳澄)

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